第119回

「A・ミラー、トレードするなら」

 これまで保持するとしてきた76ersが一転、アンドレ・ミラーのトレード交渉に応じる姿勢があることを報じられた
 獲得に関心を示すとされるクリーブランド・キャバリアーズとマイアミ・ヒートについて、この話を検討してみました


 まず、なんといってもわかりやすいのはマイアミ・ヒートとのトレードで、可能性としては2パターンあると思う。

 A・ミラーの契約残は2年・約2154万ドル。今シーズンのサラリーは936万ドル1077万ドル。再建を進めたい76ersとしてはこの契約を1年でも短いものにできれば大きい。ヒートには契約残が1年893万ドルのジェイソン・ウィリアムスがいる。このウィリアムスを軸としたトレードの可能性が1つめのA案とする。

 もう一つは76ersがPGのルイス・ウィリアムスの出場時間を確保したがっている、との点に重点を置いての話で、リッキー・デイヴィス(契約残1年・681万ドル)とスマッシュ・パーカー(同2年・460万ドル、今シーズンは220万ドル)でのトレード、これをB案とする。ルール上、パーカーは12月15日まで、デイヴィスは12月24日までトレードすることはできないが、内容についてだけ詰めたいと思う。

 視点をヒート側にした場合、A案を実行した場合、現在の状況が大きく変わるとはそれほど期待できない。PGのJ・ウィリアムスはよくやってくれており、そのポジションにミラーが入るわけで、確かにいくらかの上積みは期待できても所詮「いくらか」どまりだろうし、フィットするまでに時間が必要であることを考えると、今シーズンの成績に限ればプラスかさえ危うい。

 B案だと、先のオフ唯一の「補強」となったR・デイヴィスを放出する見返りとしては厳しい。S・パーカーについては起用法を悩んでいることをライリーがうちあけており、放出は問題ないが、現時点のチームでウェイドの完全復活とデイヴィスのチームへのフィットが数少ない近未来への希望だ。そのデイヴィスにパーカーをプラスしてまでミラーを獲得し、果たして戦力的にプラスとなるのかは疑問を感じる。

 ヒートはPGに加え、オフの補強失敗でSF不足にも悩んでいる。そこで、A案でもB案でもなく、76ersへ長期契約を結んだものの、怪我もあり今シーズンここまで低迷しているカイル・コーバーをセットで獲得したいとしても、交渉の余地はあるはずだ。

 コーバーは契約残が4年・約2000万ドル残っており、今シーズンのサラリーは439万ドル。ミラーを放出し、今シーズン後のFA獲得を視野に入れると(こうすることで不満をぶちまけているA・イグダラを抑えることも可能かもしれない)、コーバーの代わりを務めることができるW・グリーン、R・カーニーがいることを考えれば、放出しても見返りがあれば問題はないはず。

 ミラーが今シーズン936万ドル1077万ドル、とコーバーは同439万ドルで計13751516万ドルとなる。
 ヒートがオファーできる内容で言うと、まず今シーズンいっぱいで契約が切れる893万ドルのサラリーのJ・ウィリアムスは外せない。さらに今シーズンいっぱいで契約が切れることもあり、R・デイヴィスを加えてオファーする。二人の今シーズンのサラリー合計は1574万ドルとなる。
 ルール上、サラリーキャップを越えたチーム同士のトレードは放出したプレイヤーのサラリー合計から「125%+10万ドル」以内と決められており、ルール上成立は可能。スタッツも今シーズンので比較した場合、76ers的に見て「+0.3得点・-0.2リバウンド・+2.3アシスト」とほぼ釣り合っているとみていい内容だ。
 もしくはR・デイヴィスではなく、パーカーとJ・ウィリアムスに加えドレル・ライトをヒートは放出し、ミラーとコーバーを獲得するというのもありえるか。この場合、サラリーはヒートの3人が計約1270万ドル、76ersの二人が計13751516万ドルのまま。76ersはコーバーの代わりに若手SFを加え、今シーズンのサラリーカットにも成功する。しかし、逆にヒートはタックスの支払いも考慮すると約500万ドルの負担増となる。
 ヒートがタックス支払い自体を避けたがっていたことを考えると、やはり「JW+R・デイヴィス⇔A・ミラー+K・コーバー」と考えるのが妥当か。

 ともかくヒートとのトレードを成立させれば、76ersは来シーズンのサラリーが大きく削減され、今シーズン後のFA獲得に大きく前進する。イグダラと年1000万ドル程度での再契約を交わしたとしても、来シーズンのサラリーは3100万ドルほどとなり、大物FAの獲得は充分に可能だ。しかも、チームにはイグダラ、S・ダレンバート、R・エヴァンス、W・グリーン、T・ヤング、R・カーニー、J・スミスとそれぞれのポジションで軸が残っており、各プレイヤーの成長次第では一気に躍進、というのもありえる。
 ヒートはこれで、PGにA・ミラーにS・パーカー、SGにD・ウェイドとD・クック、SFにK・コーバーとA・ハーダウェイ、PFにU・ハスレム、CにシャックとA・モーニングとなり、今の布陣からの変化は確かに感じることができるはず。
 ただ、問題はヒートとして、これでチーム成績が大きく上向くかと言う点。
 特にコーバーのディフェンスには疑問を感じざるを得ず、現時点においてもシャックがカバーに動けていないこともあり、カットインに対するディフェンスは悲惨な状況。R・デイヴィスがその点について優秀とは言わないが、少なくともコーバーよりは優れている。逆にアウトサイドシューターとしては間違いなくR・デイヴィスより素晴らしいコーバーだが、ディフェンスにまた一つ穴ができてしまうことになる。はっきりいって、今のヒートの問題はオフェンスよりもディフェンスにある。オフェンスではウェイドがおり、シャックもこちらでは充分チームに貢献できているし、R・デイヴィスが活かされ始めるのも時間の問題だ。だが、ディフェンスではシャックがかつてのフットワークを取り戻さない限り、今の陣容で改善されることは考えいにくい。

 この事実をどうHCが、チームフロントが判断するかはわからないが、一応トレードを成立させようと思えば、こうなるのではないかと考えてみました。



 で、もう一方のクリーブランド・キャバリアーズだが、噂ではチームから制限付きFAとなっているアンダーソン・ヴァレジャオとのサイン&トレードが噂されています。

 チームと契約問題でこれほどまでにこじれたヴァレジャオがもはやキャブスに戻ってくるとは私は考えにくいと思っており、ヴァレジャオの今後として考えた場合、不満全開でクオリファイイングオファーの額での1シーズンプレーを受け入れてオフに移籍となるのか、サイン&トレードとなるのかの2つとなるかと。

 そこで76ersはと考えた場合、既にお伝えしたとおり、チームのエースであるアンドレ・イグダラがチームに不満を爆発させており、それを緩和する為にも何か手を打つ必要が生じている。それがヒート案の「オフに大物FAを獲得するから」という姿勢で納得させるのか、ヴァレジャオの状態にもよるが、サイン&トレードですぐさま補強を行うのか。イグダラに接していないとどちらを選択する必要があるのかわかりませんが。
 で、今回のキャブス案では後者ということになります。

 A・ミラーのサラリーが今シーズン936万ドル1077万ドル。一方、ヴァレジャオが希望している契約が年1000万ドルクラスと言われています。しかし、キャブスはD・グッデン以上は出さない(今シーズンでいうと640万ドル)として、交渉がもつれて現在に至っており、契約がこの640万ドル以上1000万ドル未満ということになります。単純に間を取ると(そうでもないと想像の域を超えないので)、750〜850万ドルということになるかと。そこで、76ersとしては、年平均にすると800万ドルを出す代わりに、「期間を短くすること」と「来シーズンのサラリーを抑えること」をヴァレジャオ側に要求してもらいたい。ヴァレジャオは身体能力とガッツが売りのプレイヤー。今後、どう成長するか未知数な部分が多く、契約が長くなればなっただけリスクは当然高くなる。理想では3年、実際は4年あたりが妥当か。更に来シーズンは76ersがFA市場での大物の獲得が可能なオフを迎える。それに備え、来シーズンのサラリーは抑え、その分を後に補えるような契約にする必要がある。例えば、1年目を800とし、問題の来シーズンを720だとすると上昇率が上限12.5%(※)だったかと思うので、その翌シーズンを810、その次を870とすれば、年平均にすると800万ドルの契約となる。

 ※注:だったかな?ぐらいです。確か元所属チームとの契約なんで上昇率の上限が12.5%で6年が最長だったはず。で移籍の場合は10%だったかと。ただ、これはマックス契約に限ったことかもしれないので、ここらへんは不確かです。当てにしないでください。

 更に76ersとしては、今シーズンいっぱいで契約の切れるイラ・ニューブル(344万ドル)が欲しいだろうし、逆にキャブスとしてはインサイドの補強をしたいと考えており、レジー・エヴァンス獲得を希望するかもしれない。キャブスが獲得を希望しているとされるベテランのクリス・ウェバーはチーム内での重要な役割を求めているとされており、優勝を目指すキャブスでD・グッデンもいることから実現は難しいと思われるし、P.J.ブラウンはいまだに今シーズンプレーするかどうかさえわからない。それを考えると、契約残が大きい(4年1900万ドル)のエヴァンスだがギリギリ許容範囲内ではないかと考えられる。リバウンドに特化しているエヴァンスは、最近ミドルでのオフェンスを好んで実行するジドルナス・イルガウスカスとの相性にも問題はなさそうだし。

 A・ミラーとR・エヴァンスとで今シーズンのサラリー合計は13701511万ドル。先の例でいくとヴァレジャオが今シーズン800としたら、ニューブルの344万ドルとでは1144万ドルとなり、「125%+10万ドル」のルールに引っかからず、成立させることができないが、ヴァレジャオがサイン&トレードであることを考えると初年度のサラリーを調整することは可能で、例えばヴァレジャオの初年度のサラリーを900万ドルとすればこの条件下でのトレードは成立可能になる。
 他にもE・スノウ+I・ニューブルとかの案も考えましたが、スノウが2年1410万ドル残しており、76ers側のメリットが少ないことを考え、上記案としました。

 上記の案のとおり、エヴァンスを76ersが放出することで似たタイプのPFを二人抱えることが避けられ、キャブスはエヴァンス自体は割高な感は否めないがとりあえず補強に成功する。キャブスはサラリーの状況は悪化するものの、契約できていない制限付きFAとニューブルで安定感のあるPGにちょっと割高ながらリバウンドには期待できるPFを獲得できるわけだから、まずまずか。



 一見、76ersに厳しく、ヒートにとっておいしいように見える「A・ミラーの獲得」だが、結論をヒート的に言うと私はトレード反対である。…長々と書いておいてなんですが。問題がディフェンスにある以上、コーバーの獲得はあまりにもオフェンスに賭けることになり過ぎる。コーバーが今シーズン、これまでより積極的にディフェンスをしているは評価できるので、それを今後も期待できるとし、成長させられると判断した場合はありと言えるかもしれないが。

 一方のキャブス的にはミラーを獲得する案は上でも書いたとおり、一押し。
 ただ、76ers側に立った場合はヴァレジャオと長期高額契約するのはお勧めしない。76ersの立場に立つと、ヒート案で来シーズンのサラリーをカットするほうがいいのではないかと思う。

 ヒート的立場・ヒート案?
 キャブス的立場・キャブス案
 76ers的立場・ヒート案

 という変な結果になってしまった。
 ヒート的立場でのヒート案を半否定するのはおかしな話だが、確かにヒートはこのままいっても苦しい戦いを強いられ続けられそうだから、動くのも手かもしれないが…。あとはやっぱり、蓋を開けてみないとわからない。


 asua



 A・ミラーのサラリーを間違ってしまい、訂正させていただきました。
 数字の訂正箇所は訂正したとわかるように取り消し線を残させていただきました。

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